ソケット形状とライナー懸垂について【その1】

NU-Flex SIV Socketユーザーで電子制御膝継ぎ手ユーザーの大腿義足のま~ちゃんです。

義足を履き初めた方や、すでに義足歴が長い方など、
大腿義足ユーザへ、ソケットの形状やライナーの種類、懸垂方法などなど
私の臨床経験や資料、関係者からのサポートをいただきながら
大腿義足のあれこれをアップしていきます
(個人的見解もありますのであらかじめご了承ください)

※気になる箇所などありましたら、遠慮無くご指摘ください。
 随時修正・アップデートする予定です

<今回の概要>

今回は、主に大腿用ソケットの形状について掲載します
(説明の都合上一部懸垂方法も書かせていただきます)
なお、ソケット形状の写真等は都合割愛します

1.ソケット形状について

 私が知る限りは、主に下記4つの大腿用ソケットがあります
 (差込式ソケットや各ソケット派生型は都合上割愛させていただきます)

 ① 四辺形ソケット

 ② 坐骨収納型ソケット(IRCソケット:Ischial ramal containment)

 ③ M.A.Sソケット(Marrow Anatomical Socket)

 ④ NU-FLEXソケット(THE NORTHWESTERN UNIVERSITY FLEXIBLE Socket)

2.各ソケットについての解説

簡単に切断者にとってソケットのメリット、デメリットをご説明します
(断端に対し、各ソケットは適合していることが前提です)

 ① 四辺形ソケット

  上部からソケットを見た際、上縁が四辺形をしている(四角形ではない)

  ☆メリット

   ・昔からある歴史あるソケット、国内外でもユーザは多い
   ・ソケット形状がわかりやすい、内側と後方棚の縁が進行方向に対して水平か垂直方向になっている
   ・ソケット後方の棚が比較的に広く坐骨をのせやすい形状になっている(後方の棚に体重がしっかりのせられる)
   ・座った際のソケット安定感が良い(後方棚の縁が接地面と水平接触するため)
   ・ソケット形状が簡単なため、他のソケットよりは製作費は安くできる(材質の違いで価格は大きく異なる事がある)

  ★デメリット

   ・ソケット上縁(上部の縁)が長いとズボン等が破れ(擦り切れ)やすい
   ・座位の時、後方棚の縁と座面が接触する形状のため、痛みや違和感(突き上げ感)がおこることがある
   ・ソケット後方の棚と坐骨が当たる(載せている)ため、突き上げ感や痛みがでやすい
   ・ソケット後方の棚と坐骨が当たって突き上げ感がでる時があり、その際痛みや違和感を避ける動作が発生しソケットが内外転しやすい
   ・活動レベルが比較的高い切断者は、歩行時に断端前後の筋が大きく張り出す傾向があり、そのためソケット内壁前後で筋の圧迫感が発生し、
    痛みや違和感が発生しやい

 ② 坐骨収納型ソケット(IRCソケット:Ischial ramal containment)

  四辺形ソケットの進化版、坐骨を収納しながら荷重支持する形状のソケット

  ☆メリット

   ・坐骨を収納するようなソケット形状のため坐骨まわりの違和感が少ない
   ・外壁がやや高く製作されており、歩行時は外壁のおかげで進行方向に支持する形状になっているため、内外転しにくい
   ・断端形状とソケット形状はフィットするように採型して製作するため、ソケットと断端のフィッティング感は良い
   ・上縁のソケット形状は、前後に広く内外に狭く設計されているため、歩行時のソケット支持性があり安定した歩行ができる
   ・ソケットに使用する樹脂を柔軟な素材(Prothe Flex SystemやFlexEVA・・・など)や2重ソケットで製作すると、その素材と皮膚との接触は比較優しく快適感を得られる

  ★デメリット

   ・製作時、SitCast(シットキャスト)や採型治具等を使用しない採型(つまり手技)でソケットを製作した場合、出来上がったソケットとのフィッティング感が得られにくいことがある(手技採型時はP.O.の腕次第になる)
   ・ソケット上縁が長いと、四辺形ソケット同様にズボン等が破れ(擦り切れ)やすい
   ・製作費が四辺形より少し高め(材質の違いで価格は大きく異なる事がある)

 ③ M.A.S.ソケット(マスソケット/Marlo Anatomical Socket)

  メキシコのRodolfo Marlo Ortiz Vazquez del Mercado(ロドルフォ マルロ オルティス バスケス)氏(義肢装具士)が
  1999年頃に開発したソケット
  セミナー開催時期によって坐骨支持方法や高さ等が多少異なる(随時アップデートしている)
  最近では、3D技術を採用しながらの製作方法を紹介している

  ☆メリット

   ・坐骨を収納しているが坐骨での体重支持はしていない(自分のソケットは約指1本分浮いている状態)ので坐骨まわりの違和感がすくない
   ・下記4つの支持と断端全体にかかる荷重をソケット全体で静水圧荷重支持するソケット形状でフィット感はIRCソケットより良い
    ① 内側A-P(長内転筋腱-坐骨結節)
    ② 骨M-L(坐骨結節内側-大転子直下レベル)
    ③ 斜M-L(坐骨結節内足部-前外側で坐骨枝に平行)
    ④ 外側A-P(坐骨結節-大腿直筋)
   ・後壁が今までのソケットより低く設計されているため座位での快適性がある(実際はそのとおりですがお尻の肉で座っている感じ)
   ・従来のソケットと比べると、可動域が広く断端を動かすことができる(練習次第ではモデル歩きができて、あぐらを組める)
   ・個人的に歩行時のソケット支持は一番だと思う、あまり歩行意識(義足をまっすぐ振り出すイメージ)をしなくてもソケットが内外転しにくくまっすぐに振り出せる感じ
   ・(個人的経験・参考まで)酔っ払って歩いた際、ソケット形状のおかげで脚がまっすぐにでて歩けた
      ・・・ 千鳥脚になるまで飲まないことをおすすめします!!(笑)

  ★デメリット

   ・P.O.(義肢装具士)がM.A.S.ソケットセミナーを受講していないと、製作はかなり難しい(未受講者が製作する事も可能だが、ユーザーにとってのメリットが少ない)
   ・日本でのセミナーは、過去数回のみ(私が知っているのは”2010/03″、”2016/10”、”2022/10”のみ、他はわかりません・・・)
    受講料もそれなりに高額、受講完了者も多くない
   ・現時点で国内3カ所の製作所のみが所有、以前は採型治具が発売されていたが現在治具の入手はできないみたい
   ・手技採型での製作は、最高レベルの難しさがある(日本人の手技採型はかなり厳しい、体力・握力的に、技術的に・・・)
   ・基本ライナーを使わないと静水圧荷重の恩恵を受けにくい

 ④ NU-FLEXソケット(THE NORTHWESTERN UNIVERSITY FLEXIBLE Socket)

  NORTHWESTERN UNIVERSITYに在籍していた、ステファニア・ファトネ先生(Stefania Fatone,PhD,(Hons)と
  ライアン・カルドウェル先生(Ryan Caldwell,CP/L)が提唱・発表したソケット

  2016年11月4日~6日、韓国で開催されたアジア義肢装具学術大会【APOSM2016】「Asia Prosthetic and Orthotic Scientific Meeting 2016」のワークショップにて、今までのソケット理論を覆すような革新的ソケット(座骨で支持しないソケット)が紹介された
  当ワークショップに参加していた、神戸医療福祉専門学校 三田校の佐々木 伸 先生(P.O.、当学科長)が、日本に情報を持ち帰り同年11月8日から私と一緒にソケットの臨床を開始した(2018年まで約2年間)
  その後、開発者(お二人)を国内へ招待したセミナーが4回実施された

私の名言:『いままでのソケットはいったいなんだっただろう?、なんでこの形状ソケットで歩けるの!?』というくらいインパクトがあるソケット

  ☆メリット

   ・採型時、P.O.と切断者が従来と比べてリラックスしながらできる
   ・座骨を支持しないソケット形状のため、坐骨周りや内股や外側の断端の違和感、痛みが発生しない
   ・シリコンライナーを使用しての静水圧荷重支持のため、初めての歩行(訓練)でも比較的すぐに歩ける(セミナー切断者ユーザー等で実績あり)
   ・断端の可動域がソケットの中で一番大きい(モデル歩きはもちろん、開脚、あぐらも組める)
   ・物理的吸引方式を(SIV / SIS)採用することで、切断部位とソケット・義足の一体感がある(詳しくはライナー説明時に予定)
    参考まで) SIV(Sub Ischial Vacuum)方式、SIS(Sub Ischial suction)方式と比較すると前者の方がよりソケットと断端の一体感が得られ歩行時の疲れがすくない
    (要約:歩行時の初期振り出しや降り戻し時のソケットとの挙動(ほんのわずかなソケットと断端の動きの差)がほとんどなく、従来断端にかかっていた余計な動きがでにくいため、それに関する疲れ方がない)
   ・体幹で歩くソケット設計なので下記恩恵が得られます
    ① 歩く姿(歩様)がきれいにみえる
    ② 大腿切断者にありがちだったのおしりの筋肉の衰えが少なく逆に筋肉が増えてくる
     (歩行で筋肉を使うため、座った際にバランスが取れるなど)
    ③ 物理的吸引方式の恩恵があるので、歩行距離(歩数)が自然と伸びる(歩き疲れはもちろんありますが・・・)
     ※ 私の一日の歩数参考実績:(iPhoneの歩数計で確認)
       ・本ソケット + OSSUR社 Power Knee + Pro Flex ピポット・・・17K歩over/日
       ・本ソケット + Ottobock社 ジニウム + Pro Flex ピポット or Flex Food・・・13K歩over/日
    ④ そもそもソケットで上縁は出っ張る形状をしていないので、ズボンやスカートでもソケットを履いている事が目立ちにくい(特に女性に好まれる傾向)

  ★デメリット

   ・お椀型(差込式)ソケットなのでソケット製作は簡単そうに見えますが、セミナー未受講者が製作したとてもフィットできない可能性がたかい、製作できる方は出来るのでしょうが・・・
    ※ 他のソケットにも言えることですが、セミナーを受講してから製作をしないといけません、正式にそれぞれの理論と製作方法があり理解することとライセンスを持っている事が重要かと・・・ (これ以上は描きません、あとは各個人のご想像にお任せします・・・)
   ・静水圧荷重で支持する設計のソケットのため、ライナーを採用しないと装着することができない
   ・ライナーを履けないユーザーは本ソケットの採用は基本無理です(ライナーでの静水圧荷重支持、物理的吸引ができないため)
    他には、ライナーとの相性や正しい使用方法ができないユーザーも(汗が止まらない、正しい履き方を理解していない/教えてもらっていない)、ライナーを毎日清潔にできない、などなど・・・)
   ・物理的ソケットの吸引方式を採用しないとソケットの恩恵を受けられない
   ・体幹支持で歩行するソケット設計のため、「外壁がないと歩くことが怖い」と感じた切断者は採用が難しい
    (従来のソケット概念はほとんど無く、健側と同じ歩き方で義足もあるくと理解してほしい)

<まとめ>

<※重要※>
 基本的にセミナー受講者が当該ソケットを製作しないといけません、ユーザーはそれぞれのソケットの製作実績・ライセンス等を確認してから製作を依頼される事をおすすめします 

簡単にソケット比較したマトリックス表を掲載します
(掲載条件)
 ※ 今までのソケットを装着した体感を一般的なIRC基準として個人的見解で表現
 ※ 製作過程については、P.O.資格保持かつ製作過程をマスタしているという条件下で比較
 ※ ライナー使用時の評価については、ピン懸垂と吸着・吸引方式の比較は割愛します(次回以降で説明予定)

<最後に>

 第一回の内容はどうだったでしょうか?
 私的に、ここまで詳しく説明したのは初めてです
 説明内容や表記に至らぬ点等があるかと思いますがご容赦ください
 
 次回も引き続きアップしていく予定です
 最後まで、お付き合いいただきありがとうございました
   

2023/07/11 投稿

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